hicksian氏とoptical_frog氏のTwitterでの発案のもとtmpsoulcage氏も参加してスウェーデン国立銀行のメモを翻訳しました。僕の担当は第3節と第4節の一部です。最終的にはまとめて「リフレポータルwiki」に載せます。
前説で概説した問題の観点から、デフレスパイラルを避けるための手段をとることが重要である。デフレのリスクを最小化することを保証するような、あるべき金融政策の枠組みの策定については一般的な合意がある。その中心的な含意は、金融政策はインフレ率及び期待インフレ率をプラスに、しかし低いレベルに安定化させることを目的とするべきだ、ということである。経済主体に対して明確な規準として機能するような、明示的なインフレーションターゲットを設定することで実現することが出来る。金融政策はインフレ率がターゲットを下回るような(もしくは上回るような)圧力を受けた際に、これを防ぐ手段を取れるようにフォーワードルッキングでなければならない。
これには特定のインフレ率でターゲットを定義するための、まだ実践ではあまり試されていない興味深い方法がある。これは、例えば毎年2%のインフレ率で上昇していく将来の物価水準をターゲット経路と設定する、といったものである(図B18参照)。物価水準目標はデフレを防ぐにはより望ましいインフレーションターゲットと言える。なぜならば、このような戦略が信任されたとすれば長期のインフレ期待を安定化させる、経済にとってより効率的な方法と看做せるからである。物価水準目標は今日のデフレ(訳注:原文では「インフレ」だが誤植と思われる)は将来の高いインフレで相殺されなければならないことを意味する(逆も同様)。これは通常のインフレーションターゲットのように初期の低インフレを取り返す義務を課さない場合に較べて、平均インフレ率が高くなることを意味する(図B19参照)。
わずかに短い期間、物価水準目標はデフレに陥ってしまった場合でも実質利子率をより望ましい率に下げることに貢献できる。さらに物価が低下した場合、ターゲット経路に復帰するためにより高いインフレ率および期待インフレ率が求められる。このため、さらなるデフレによって名目金利がゼロまで引き下げられたとしても、実質金利は「自動的に」引き下げられる。もう一つの利点はデフレの場面において物価水準目標は通常のインフレーションターゲットと異なり債務者の実質債務を増加させることがない点である。なぜならば、物価水準が貸借契約の基礎となった元の物価水準の経路に復帰するからである。
(p.58 右側の最初のパラグラフ) One suggestion that has attracted considerable attention ... 以降の翻訳
多くの注目を集める考えに次のようなものがある。中央銀行が為替相場に対してアクションを起こすことによってインフレーションが実際に発生するという確信を持たせることができる、というものだ。この考えは次のように説明できる。
中央銀行は次の事柄を表明し、実行する。
為替相場の操作が将来の物価水準の期待に影響する理由を理解するには、少し遠回りして次の質問を考えてみると分かりやすい。もし高めに設定された将来の物価を実現するという約束が水準経済主体から信任されたとすると、為替レートはどのように影響されるであろうか?将来の高めの国内物価上昇率という期待は将来の為替レートの減価を伴う。なぜなら国内と海外の財の長期の交換は影響されないからである。図B12では将来の物価水準がPTからPT'に増加し、為替レートはVTからVT'に同等な額だけ増加する。しかしながら、将来の期待為替レートが弱い方向へ行くということは現在の為替レートはさらに減価することを意味する(VOからVO'へ)。このようなことが起きる理由は、もし国内の名目金利がゼロで、海外の名目金利がプラスならば通貨の増価が国内と海外の通貨における投資の収益がある期間内で同じになるために必要だからである。外国為替市場の均衡条件はこのように満たされる。図B20はVOVTからVO'VT"への全ての為替レート経路の平行なシフトを表している。言い換えるならば、ターゲットとする将来の物価水準が信任されるならば、現在の通貨の著しい減価というかたちで反映されるのである。
上述の"three-point programme"はこの説明の終わりから説明が始まる。中央銀行はより高い国内物価水準の期待と将来の為替レートの減価期待を形成することが出来る。これは通貨と為替レートの減価の表明とターゲットとする為替レートでの無制限な外貨の買い入れという行動によって実現できる。1990年代初頭にデフレ圧力(訳注:原文はdepreciation pressure(減価圧力)だが通貨の減価はインフレを意味するので筋が通らないと判断)をうけた(スウェーデンの通貨)クローナに対するよりも為替レートの減価誘導のほうが遥かに簡単に信任を得ることが出来るであろうことは注意すべき点である。もし宣言された戦略が途中で挫折したならば、通貨は中央銀行お発表前の元のレベルにすぐに増加してしまうであろう。通貨を保有する投資家はこのとき利益を得ることが出来る。このことは宣言された為替レート経路が信任を得る前の最初の段階で通貨に対する超過需要が存在したことを意味する。この需要は中央銀行が新たに通貨を発行するだけで簡単に満たすことが出来る。この考えの中心となる要素は中央銀行は外国為替市場での明確な行動を通じた約束に信任を取り付けることができる、ということである。これは中央銀行が単にインフレ率や物価水準のターゲットを表明するだけのものと対照をなしている。
要約すると、企業と家計の期待インフレ率が程よいところで安定するような経済を保証することが、デフレに対するおそらく最良の防御であるだろう。「程よい」インフレ率とは2%前後であることが多くの指標から示されている。よって、2%前後のインフレ率をターゲットとする中央銀行はデフレを防ぐという面で”追加的な保険”をかけていると言えるだろう。それでもデフレに陥って名目金利がこれ以上下げられないところまで来てしまったとしても、他に頼ることの出来る手段はいくらでもあるのである。これらの手段には、長期国債の金利引き下げ、将来のインフレ率や物価水準が高まる期待の形成、財政政策などが含まれる。ここでの文脈では小国の開放経済は特に優位な点を持っている。外国為替市場は期待インフレ率や期待物価水準を引き上げるような手段に信任を得ることが出来るからである。
Twitterでデフレ脱却のための署名運動が始まりましたのでお知らせします。勝間和代さんが集まった署名を携えて、明日、国家戦略室に説明に行くそうです。中身はともかく、デフレから脱却することが大事だと思います。何もしない後悔よりも何かした後悔の方が良いではないですか。Twitterのアカウントは簡単に作れるので皆様ご協力を!
皆様、ご無沙汰しています。私はここ数年、なぜ日本経済が立ち直らないか考えてきましたが、一つの結論に達しました。
多くの識者が指摘するように、日本には構造改革が絶対に必要だと確信するに至りました。そして、ダメなものは淘汰されるという資本主義において当たり前すぎる原理が適用されるべきです。
日本経済停滞の原因となっている構造を改革しなければなりません。放っておいても自然と回復するなどという淡い希望を捨てる勇気を持たなくてはなりません。
政権交代が実現した今こそ、真の構造改革派が立ち上がらなければなりません。皆さんも一緒に立ち上がりましょう!行動を起こしましょう!我々に必要なのは 構 造 改 革 なのです。
つづく
前回のエントリのコメントにてオーロラさんよりFRBが超過準備に利子を支払っている件について質問があった。FRBの公式見解はニューヨーク連銀のサイトで次のように説明されている。
3. Why is the payment of interest on reserve balances, and on excess balances in particular, especially important under current conditions?
Recently the Desk has encountered difficulty achieving the operating target for the federal funds rate set by the FOMC, because the expansion of the Federal Reserve’s various liquidity facilities has caused a large increase in excess balances. The expansion of excess reserves in turn has placed extraordinary downward pressure on the overnight federal funds rate. Paying interest on excess reserves will better enable the Desk to achieve the target for the federal funds rate, even if further use of Federal Reserve liquidity facilities, such as the recently announced increases in the amounts being offered through the Term Auction Facility, results in higher levels of excess balances.
(3. 現在の状況において準備預金や超過準備に対して付利することが特に重要なのは何故ですか?
最近 Desk (The Open Market Trading Desk) はFOMCによって決定されたFFレートターゲットを実現する上で困難に直面しました。なぜなら、FRBがとった様々な緩和手段の拡大が超過準備の大幅な増大を招いたからです。超過準備の拡大は結果としてオーバーナイトのFFレートへの強い低下圧力をもたらしました。超過準備への付利はより一層高い超過準備レベルを招くようなFRBの緩和策(最近発表されたようなTAFなど)が取られたとしても、ターゲットとするFFレートの実現を可能にします。)
これがFRBの公式見解だが、ターゲットとするFFレートは0〜0.25%であって、0.25%ではない。にもかかわらず超過準備への付利は0.25%で行われている(参考サイト)。さて、そもそも超過準備が拡大する原因となっている政策はなぜ行われているのかを考えると、上のNY連銀の主張はおかしいように思える。超過準備が拡大しているのは名目金利のゼロバウンドのために国際以外の資産購入による貨幣供給量の増加を狙ったためである。すなわち金融緩和の一環である。しかし、0〜0.25%でFRBは銀行に資金を出し、それを連銀に預けると0.25%の金利がもらえる、ということは銀行に対してマイナスの金利(0〜-0.25%)で金を貸していることになる。しかもこれは銀行が民間企業に貸し出しを行なわないことへの見返りとして得られる利益である。未曾有の不況に直面している企業に貸し出せば金利云々よりも債務不履行のリスクを抱えるから、銀行に対しては意外と(貸し出しを行わない)強いインセンティブを与えているかもしれない。FRBは様々な資産を購入してマネーサプライを増加させようとしているのに、同時にそれを吸収してしまうような政策を取って効果を相殺してしまっているのである。Scott Sumnerは大恐慌に対するFriedman-Schwartzによる金融政策批判(FRBが不況時に準備率を引き上げ恐慌を招いた)を引き合いに出し、次のようにFRBの政策を批判する。
TheMoneyIllusion ? The Lucas Roundtableより引用:
All economists who study monetary economics are exposed to this famous example from Friedman and Schwartz’s Monetary History. And yet for some inexplicable reason when the Fed started a policy of paying banks to hold on to excess reserves last October 6th, there was hardly a murmur of protest from academic economists. A few economists such as Robert Hall, James Hamilton and Earl Thompson did discuss the potential contractionary impact of the plan, and Hall and Woodward even called the Fed’s explanation “a confession of contractionary intent.” That is, the Fed began paying interest on reserves in an attempt to prevent the fed funds rate from falling below their target of 2%. In fact, the Fed still pays interest on bank reserves at a rate higher than they can earn on 3 month T-bills, which insures that any quantitative easing will have little impact on aggregate demand. Not surprisingly, the program has led banks to hoard almost all of the money that the Fed has injected into the economy over the past year.
(Friedman-SchwartzのMonetary Historyのこの有名な例に触れたことのない貨幣経済学者はいない。理解に苦しむことだが、そしてそれにもかかわらずFRBが昨年の10月6日に銀行が超過準備を持つことにご褒美を与える始めた時にこれを批判した経済学者はほとんどいなかった。Robert HallやJames Hamilton、Eari Thompsonといったわずかな経済学者がこの政策の潜在的な引き締め効果について議論しただけである。Hall and WoodwardはFRBの説明を「引き締め嗜好の告白」とさえ呼んだのだった。FRBはFFレートのターゲットである2%を下回らないように準備預金に金利を支払い始めたのである。実際にはFRBは3ヶ月物国債から得られる金利よりも高い金利を準備預金に対して今も支払っているのだ。つまりこれはどんな量的緩和策も総需要に影響を与えないようにしているのである。驚くことではないが、この政策は過去一年間にFRBが経済に投入した貨幣のほとんどを銀行が退蔵するという結果をもたらしたのである。)
オーロラさんが参照しているサイトに書かれている解説はFRBの公式見解と一致している。しかし、マネーサプライを増やしたい、という目的とFFレートを0.25%に保ちたいという衝動は矛盾する。どんなに貨幣を銀行に注入しても、それがベースマネーとして積み上げられて市中に出て行かなければ金融は緩和されない。それにFFレートのターゲットの下限は0%だから、0.25%以下にしないという現在の方針は「引き締め嗜好の告白」と言われても抗弁できない。FRBにも日銀的な思考(プラスの金利が「正常」という考え方)の持ち主がいることに正直ガッカリした。というか、世界経済の先行きが不安になった。FRB、お前もか。
薬も量を間違えれば毒になる。毒になることばかりを心配して薬を使えないのが日銀だ。薬を処方できない医者なんかいらないように、金融緩和できない日銀なんて要らない。
では現実にどんな種類の薬があるのか。
通常の金融政策は金利を通じてマネーサプライを増減させるが、日銀は「ゼロ金利の壁が手足を縛っている」という。つまり、「名目金利はゼロ以下には出来ない」という理屈だ。しかし、それは数の歴史において「負の数など存在しない。なぜならリンゴは1個2個と数えられるが、0よりは少なくなれないからだ」という今となっては恥ずかしい論証と同じように説得力がない。マイナスの金利、つまり借金すると利息をもらえる、があって何がおかしいのか?
スウェーデン中央銀行が行っているのは超過準備に対するマイナス金利。これは日銀の実務としてのオペレーションとしては市中銀行の超過準備(銀行の持つ資金のうち貸し出しに回らない分で、日銀にある市中銀行の当座預金になる)に対する負の利息になるので、市中銀行に対するペナルティと捉えられるが、それは見方が局所的すぎる。
日銀がいくら銀行に資金を提供しても、それが貸し出しに回らず超過準備になってしまう一つの理由は超過準備に付利するからだ、と批判する経済学者がいるが、それは正しいように思われる。貸し出すよりも超過準備の利子で儲けた方がリスクなしで儲かるから良い、というスタンスになるのはやむを得ないからだ。これではせっかくの金融緩和も効果が半減する。なにしろ需要がないのだからそう簡単には貸出先は見つからない。だから、超過準備の利子をマイナスにしよう、つまり超過準備として日銀に預けておくと少しずつ資金が目減りしていくことにすればもっと市中に資金が回るはずだ、と考えるのはごく自然なことだ。これを「ペナルティ」と考えるのは、特にデフレの日本では無理がある。実質金利で考えればマイナスとは限らないからだ。デフレでなかったとしても金融緩和という文脈で捉えればペナルティにはならない。日銀からの貸し出しの金利もマイナスにすれば良いからだ。こうすれば、市中銀行は借りれば借りるだけ利子を得ることが出来るわけで、ゼロ金利という「壁」は取り払われる。何も特別なことはない。
さて、こうなると同様に市中銀行も企業などに対してゼロ金利の制約がなくなる。日銀がマイナス10%で市中銀行に資金を出せば、銀行はマイナス5%で貸し出しても儲かる。これならばデフレ下においても借金による投資が怖くない。銀行は預金を集める必要がなくなるから、預金金利はゼロになるだろう。別にこれをマイナスにしたって構わない。タンス預金になるだけだ。デフレというベースを考えればタンス預金のゼロ金利は実質ではプラス金利だから、とやかく言うことではない。金利収入よりも給与所得を増やすことの方が政策として遥かに健全な方向性だということを忘れてはならない。
マイナス金利は「非伝統的金融政策」と捉える向きもあるかもしれないが、そういう人は負の数が存在しなかった時代に生きていれば良い。数の概念の拡張が受け入れられるまでに時間がかかったように、金利の(心理的な)非負制約の撤廃には時間がかかるだろうから、そういう人たちを責めることはできない。
「伝統的金融政策」というのは言葉通り、これまでに経験したことのある政策を指すわけで、前例主義の官僚にふさわしい言葉だ。「前例にない」と言うよりは「伝統的金融政策ではない」と言われるとつい納得してしまう人もいるかもしれないが、違いは何もない。官僚主義に騙されてはいけない。大切なことは金融政策の目的達成であり、その手段を模索することである。
伝統的金融政策からの脱却としてまず考えられるのは国債に囚われない資産・財の購入だ。日銀は社債やCPの買い入れを始めたが、エクスキューズとしてやっているだけにしか見えない。今必要なことは明確なターゲットの設定であり、その実現を人々に信じさせることである。しかし、日銀の行っていることは官僚的な言い逃ればかりで、すべてがちぐはぐだ。実際にはデフレターゲティングをしているのに、形だけの「リスク資産購入」。日銀の言う、貨幣需要がないから金融政策が効かない、というのは大恐慌時代の"Treasury View(大蔵省見解)"で、大嘘だ。貨幣需要がなければ作ればいい。それが日銀には出来る。FRBのように様々な資産を購入するのも一つの手だが、麻生政権が行った定額給付金が最上の方法だ。その理由は第一に「迅速に貨幣を行き渡らすことが出来る」こと、第二に「資源配分に歪みをもたらさない(もしくは小さい)」ことだ。効果を測定することは困難だが、日銀が政策を発動していない現状で、日本経済が持ちこたえているとしたら一番大きな効果を持ったのは定額給付金だろうと思う。こういう政策は財政政策的金融政策なので、縄張りに固執する日銀は嫌う。しかし、マネーサプライをコントロールできるのは日銀だけであり、マネーサプライを通じて物価の安定を図るのが日銀の役割なのである。
Author:night_in_tunisia
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