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フリードマン&シュワルツ『大収縮1929-1933』を「連邦準備制度」を「日銀」に空目しながら読む その1

タイトルは釣りです。

『大収縮1929-1933』を読んだ。これは全日本人必読。もっと早くにこの本が翻訳されていれば、日本の失われた15年(もうすぐ20年になりそうだけど)は失われた2年ぐらいで済んだかもしれない。

この本は元々は大著「Monetary History of the United States」の一部分に過ぎないわけだが、そのなかでも最も重要な大恐慌時代について触れている。それまでアメリカで考えられていた、また日本では今でも多くの人が考えているような大恐慌観を覆した本である。

この中でフリードマン等は大恐慌の引き金となった金融引締めや、恐慌へと導いたFRBの政策とも言えない迷走ぶりがこのなかで明らかにされている。

この本には書かれていない前段階を僕の知る範囲で補足しておきたい。イギリスでは既にイングランド銀行(BOE)が銀行危機を手なずけている中で(バジョットによる有名な「バジョットルール」が提唱されたのは1873年でその頃から大恐慌が起きるまでイギリスに金融危機は起きなかった)、アメリカは建国思想の一部ともいえる分権指向のために中央銀行自体が19世紀のほとんどの期間存在しなかった。1929年の株価の暴落以前にも金融危機は10年に一度は発生していたのだが、1907年の金融危機を受けてついにアメリカで連邦準備制度が発足した。これが1914年である。

連邦準備制度が発足したものの、地区連銀の合意体として意思決定が分権的であるなどの問題が残った。当初はベンジャミン・ストロングという商業銀行(Banker's Trust of NY)の社長が天才的なリーダーシップを発揮して周囲を抑えていたが、彼は大恐慌前夜の1928年10月に亡くなってしまう。Banker's Trust of NYは民間銀行でありながら、銀行の銀行として立ち回る中心的な銀行であったわけだが、その社長として1907年の銀行危機を経験して中央銀行の必要性を痛感したようだ。また、彼の金融政策は極めて現代的で適切だったようである。1929年以前にも銀行危機は存在したが、実体経済に大きな悪影響を及ぼすような事態にはならなかったようである。このことが1920年代の繁栄の基礎となり29年の株価大暴落を迎えたことは、グリーンスパン時代に繁栄を謳歌したアメリカが危機に陥ったのとパラレルになっている。

1928年にストロングが亡くなり、金融の地・ニューヨーク連銀の相対的地位が低下する中、連邦準備局は迷走を始める。清算主義が台頭し始めたのである。

つづく
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【翻訳(要約)】次世代の経済危機?ホール・クルーグマン その4

このシリーズの最終回です。こういうのを読むとクルーグマンがどういう思考で物事への理解を深めているのかがよくわかりますね。肝は「観察力」でしょうか。「洞察力」と言っても良いのかしら。そこがしっかりしているとアドホックに足された仮定も、うまく説得できてしまう。最初はとにかく荒っぽく需要関数や供給関数を想定して、市場の動き、経済の動きを考えて、あとはそれが面白いと思った人が、精緻化していけばいい、って感じかな。

第4節のタイトルは「閉鎖経済での金融危機」だけど、これはここまでの危機が通貨危機という開放経済で発生するものと対置しているのでしょう。


閉鎖経済での金融危機

さて、前節で説明した投資行動がアジア危機に似たタイプの危機を閉鎖経済においても(といっても閉鎖経済である必要はない)発生させることを説明しよう。前節で使っていた要素価格qは実はトービンのqなのだ。そして、経済がなんらかの価格の硬直性を持っていて、このqが産出水準yを決定するものとする。

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これは財市場の均衡を表している。

qはどのように決まるであろうか?ここではアドホックにqは産出レベルyと利子率iで決まるものとする。

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産出が増えればqは上昇し、金利が上がればqは減少する。次に、貨幣需要についてはRomer(1998)に従って、中央銀行は産出水準によって利子率を決めるものと単純化する。

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式(9)と(10)で資産市場の均衡を表す。

Tobin(1955)などの非線形景気循環論の伝統に従いy(q)は非線形と仮定する。qがあるレベル以下ではグロスの投資がゼロに近く、これ以上減らせないためにqのyへの反応は小さくなる。また、あるレベル以上ではキャパシティの制約などからqの増加はyを大きく変化させない。そこで下の図にあるようなGG曲線を得る。

Figure5-1

資産市場では式(9)、(10)から

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となるが、これをyで微分すると、

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となる。qy > 0 、qi < 0、i' > 0と仮定しているから右辺の第1項は正、第2項は負となりAA曲線は右上がりにも、右下がりにもなりうる。金融政策が十分に反応的(すなわち第2項の絶対値が第1項よりも大きい時)ならばAA曲線は右下がりになる。逆に十分に反応的でなければAA曲線は右上がりとなりこの時には複数の均衡が得られる。これはバカバカしい話で、中央銀行が単に金利を十分大きく反応させればこのようなことは問題にならない。

Figure6

しかし、もし中央銀行がAA曲線が右下がりに出来るほど利下げができなかったとしたら、もし名目金利が非負制約にかかってしまっていたらどうなるだろうか?

このような時には金融政策で金融危機を脱することはできない。

何らかの理由で資産価格が下落し、それが投資の収縮を通じてデフレを発生させたならば、中央銀行が金利をゼロにしても悪性均衡から脱却することはできないのだ。この時点で政策は限定される。日本のケースについて随分と論じてきた。ゼロ金利は必ずしもインフレを起こすための下限ではないこと、すなわちインタゲへのコミットメントが実質金利をマイナスに出来るから金融政策は力を取り戻すことが出来る。Svensson(2000, 2001)は特にこのアイディアを洗練させて物価水準目標や為替ターゲットがより有効であると論じている。しかし、どの場合もそのような政策をCredibleにすることは難しいし、Credibilityこそがキーなのだ。

「十分に大きな」一時的な財政拡大は悪性均衡を排除し、経済を好ましい均衡へと復帰させることが出来る。繰り返すが、キーワードは「十分に大きい」だ。日本が行ったようなハンパな財政拡大は自律的回復軌道に経済を乗せるには不十分なのだ。

このような危機が起きると構造改革が叫ばれるが、通貨危機のときと同じで何の助けになるのかよくわからない。

一般的に言って、理論的に整合的な解決方法はラディカルすぎて実行されない。また、ハンパな方法は失敗が避けられない。

さて、これが私の第4世代危機への対処法の提案である。もちろんもっとこれを精緻化し、厳密化させることが出来るだろう。私はこのタイプの危機が実際に起きる前にモデルを提示することができたであろうか?時間がたてば分かることかもしれないが、実際にこの世に生きるものとしては、このモデルが無用のものであって欲しい。(終)


さて、この原稿の面白いところは2001年に書かれたってことだと思うけど、クルーグマンが金融政策ではなく財政政策を、それも巨額の財政政策を指示する理由が垣間見えただろう。動学モデルじゃないとか批判もあるだろうけど、個人的にはそこはそんなに重要ではないと思っている。それと、単に翻訳してしまった方が、こうして要約するよりもずっと簡単であることを発見しました。すごい疲れましたー。でも勉強になった。
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池田信夫の曲解

古い話で申し訳ないが、ツイッターで出てきたので一応対応しておくべき内容と判断した。

池田信夫は1年前のこのエントリで「かつてインフレ目標を推奨したスティグリッツも、「インフレ目標なんかやめろ」と言い出す始末。」と言っているが、問題のそのリンク先を読むと、話が全然違うことがわかる。

面倒なので、翻訳はしないが内容は当時進んでいた原油と食料品価格の高騰を原因とするインフレに対して機械的に対応するインフレターゲティングはマクロ経済にダメージを与えるからやめろ、と主張しているものだ。スティグリッツが各国のインタゲをどの程度理解して発言しているのかはわからないが、コアCPIをターゲットにしている国の金融政策は原油や食料品価格の変動に影響されないから、この批判は的外れだ。イギリスのようにCPIターゲットの国は、イギリス国内にもインタゲに対する批判はあり、コアCPIをターゲットにするべきであると提言されている。また、バーナンキがまだFRB理事の時代には「インタゲがCPIの変動に対して機械的に反応するといった、中央銀行の手足を縛るようなものと誤解されている」と発言しているが、このような誤解はアメリカ国内には多いようである。つまり、変動の大きい品目に対して過敏に反応することは避けるべきという認識はインタゲ論者の中にも当然あるし、岩田規久男の「日本銀行は信用できるか」にもある通り、インタゲ採用国は例えば原油価格の高騰などの輸入物価の一時的な上昇に対してはむしろ金融緩和で対応していることがわかる(逆に日本はきっちり金融引締めで対応していることが示されている。つまり日銀は機械的なデフレターゲットを行っていることがわかる)。スティグリッツのこのインタゲ批判は単純に的外れだと言える。

これだけも充分だと思うが、このスティグリッツのインタゲ批判は日本の状況に対するものではないことは明らかで、日本がインタゲを採用するべきともするべきでないとも言っていない。この時点で世界的な金融危機が深刻化しており、日本のことなどどうでも良い、というのが本音であろう。また、批判の内容(輸入物価の上昇を主因とする物価の上昇に対して引締め政策をとることは馬鹿げている、という批判)からも日本が金融緩和をより進めるべきなのは明らかである。

また池田信夫はインタゲ推進者のバーナンキがこのような状況で「人為的インフレ政策」について一切言及しないからインタゲやリフレを放棄した、というようなことを言っているが、今やFRB議長となったバーナンキが個人的な見解を率直に表明できないことを勘案するべきである。

クルーグマンについては、彼は今でもインタゲを支持していることは変わらないのだが、基本的には彼は財政支出論者という政治バイアスがある。その上、学問的にもちょうど今僕が翻訳して紹介しているように、金融危機における財政政策の役割を非常に重要視している立場なのだ。彼がインタゲをあまり強く言わない理由は、結局のところ日銀がインタゲを採用する見込みがない、つまりインフレ率が正になった時点で引き締めに転じてしまう、というコミットメントの不完全性を払拭できないと判断したからだろう。

つらつらと書いてきたが、ここで僕が書いていることなんか信用してくれなくていい。ただ、池田信夫の紹介する海外の論説は必ず直接読んで自分で判断して欲しい。それができないのなら、単にガラパゴス経済学者が巨人の肩に乗って(いるつもりで)遠吠えしているだけだと無視するべきだ。

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【翻訳(要約)】次世代の経済危機?ホール・クルーグマン その3

えー、ちょっと間が空きましたが、ちょっと分からない部分があって行き詰まってました。ちょっとした誤解だったので、無事解決しました。

この節では前節の第3世代モデルを受けて、危機のきっかけとなる投資家の行動を資産価格の変動から説明します。皆がやるから自分がやる、という自己充足的なシチュエーションを描き、資産価格がそのキーとなることを示します。


資産価格と危機

Bernanke and Gertlerで示された前節のタイプの第3世代モデルは、不完全資本市場では企業が充分な投資機会があるにもかかわらず、保有資産の担保価値の下落によって資金調達が出来ないという観察が出発点となっている。ここで中心となるストーリーは、投資家の自信喪失が資産価格の下落を招き、投資を減少させ、さらなる資産価格の下落を生じるという悪循環である。

この節では次のような状況を想定する。

  • 小国開放経済
  • 2期間1財モデル(第0期、第1期とする)
  • この経済にははじめKの資本がある
  • 最初にK/Nを持つN人の投資家がいる
  • 投資家は最初に事業を始めるか否か選択するが、事業をする場合は開業資金Bを海外から実質金利rで借りなければならない
  • 投資家は資本を投入要素とする収穫逓減の生産関数Fで生産する
  • 資本は投資家同士で競争市場で貸し借りできるが、その価格はqとする。
  • 投資家の利益πは産出から借り入れた資本と開業資金とその調達コストを引いたものである

この想定からN人のうち何人の投資家が実際に事業を始めるのかを考えるために、事業を始める投資家の人数をnとおいて、最後に人数を明らかにする。

まず、要素市場が競争的であるという仮定から要素価格はその限界生産に等しいので

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という条件を満たす。生産関数Fが収穫逓減であることからF'は減少関数で、特にnについては増加関数となる。投資家の利益πは、産出から諸費用を引いたものだからkを投資家一人の投入資本量とすると

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として表すことができる。利益を最大にするようなkは次の条件を満たす。

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よって、

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この関係から価格qを与えられたときの投資家の利益を最大にするkがわかるが、それをk=k(q)とする。このとき利益πはqの関数として次のように表すことができる。

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これをqで微分すると、

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であるが、右辺を整理して、

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よって、要素価格qの上昇は投資家の利益を減少(正確には非増加)させることが分かった。

ここで資本市場が完全ならば、均衡が一意に存在するが、Bernanke and Gertler(1989)に従って、開業資金Bの貸し手と借り手の間にモニタリングに問題があるとする。このとき、貸し手は借り手の担保以上の貸出は行わないから、

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この不等式が等式で満たされているとすると、開業資金が調達できて事業を始めることができれば、投資は必ず利益を生むことになる。要素価格qは市場に参入する投資家の人数nの増加関数だから、他の投資家も投資すると予想される時のみ投資家は投資をし、その時は担保に開業資金をカバーするだけの充分な価値が出る。よって、ここでは均衡は二つあり、一つはN人の投資家全員が投資をする場合(n=N)であり、もう一つは誰も投資をしないという場合(n=0)であり、後者の時にはq=0である。

このモデルはもちろん非現実的だが、バランスシートの毀損がどのように影響を及ぼすかを明確にするし、少し手を加えることで、このモデルの結論を自己充足的な危機がいつも存在するような特徴を和らげることもできるだろう。しかし、ここで重要なことは、このモデルは、アジア危機のようなタイプの危機は通貨危機だけでなくより一般的な金融危機にも適用できるということを示唆しているってことd。必ずしも為替レートが危機の重要な鍵になっているわけではない。

これを次にIS-LMタイプのモデルに転換する。


ここでちょっと感想。この原稿はもともとジャーナルに投稿するためのものではないから、おおざっぱな議論でぐいぐい進めていくんだけど、これだけ読むと、最初から均衡がn=Nとn=0になるように仕組まれているようにも感じてしまうのね。かといって、細かく最適化で追っていくと、議論の筋道が見えなくなりがちだし、逆に見えるようにするために非現実的な仮定を追加していくことになって、それはそれで本末転倒な結果になったりするんで、これはこれでやはりクルーグマンのセンスなんだろうな、なんて思ったり。

分かりやすくしようと思って、原文にない数式をだいぶ補足してしまっていて、逆にごちゃごちゃしてしまったのがちょっと反省点。分かる人には冗長だし、分からない人にはこけおどしみたいになってしまったかも。

この中で、前半部分は特別な部分はないごく当たり前の議論で、特徴は投下する資本が投資家同士で融通し合うっていう部分かと思うけど、投資家を同質と仮定しているところから、均衡の一意性が最初から脆い感じはする。で、その後のモニタリング云々のところから一気に均衡が二つあるっていう結論にいってしまうのは不親切で、多分Bernanke and Gertler(1989)を読まないといけないのだろう。僕はそこのジャンプが追えなかったので、そのまま途中説明がないまま書いてます。

冒頭で誤解していたところというのは、qが要素価格ではなくて、生産物の価格だと思っていたのでしばらく停止してました。今になって思うと、なんでそんな誤解したんだろう?って感じだけど、そんなもんだな、人生なんて。

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【翻訳(要約)】次世代の経済危機? ポール・クルーグマン その2

さて、前回の続きです。今回は危機の第3世代モデルについて、すこし具体的に進めていきます。本人も言うように極端に単純化されたモデルなので、そこを「非現実的だ!」と批判するのはちょっと待って欲しい。僕自身も確認してはいないけど、批判するならちゃんとバブリッシュされた論文を読んでみないと駄目でしょう。参考文献も明記してあるので、そちらを参照して頂ければ幸いです。


バランスシートから見た危機

第3世代モデルは経済が必ずしも不健全とはいえない国から資本逃避が起きる理由を明らかにするが、それらは全て投資家の行動に焦点を当てたものばかりであり、為替レートの変動を考慮しないものであった。アジア危機ではバランスシート問題が明らかに影響していたが、バランスシート効果への考察が新たなモデルへの糸口を提供した。

モデルの出発点

企業が外貨建ての資金調達に大きく依存しているとすると、為替レートの変化(自国通貨の減価)が発生したときには、企業の実質債務が増加する。Bernanke and Gertler(1989)に従って、資本市場が不完全で脆弱なバランスシートを持つ企業は資金調達が出来ないというアイディアを導入すると、資本逃避をもたらすような投資行動を説明することが出来る。

ここでは極度に単純化された「マンガ」バージョンのモデルを使って説明する。

基本モデル

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  • 式(1)は財市場の均衡を表す方程式で、Dは国内の需要、NXはネットの輸出を表す。yは産出、iは国内の名目金利、Pは物価を表し、eは為替レート(外貨の「価格」)であり、「*」付きは外国を表す。
  • 式(2)は貨幣市場の均衡を表す方程式で、Mはマネーサプライ、Lは貨幣需要を表す。
  • 式(3)は極めて単純化された資本収支バランスを表す。

    システムで決定される変数はy, i, eの3つであるが、(3)でiを消去することが出来るので、このシステムの振る舞いは(e,y)平面に表現できる。輸出(NX)は為替レートの減価(eの上昇)によって増加するから、式(1)で表される曲線(ここではGG曲線と呼ぶ)は(e.y)平面上で右上がりになる。一方貨幣市場は為替レートと無関係と仮定されているので垂直の直線(ここではAA曲線と呼ぶ)で表される。

    Figure1

    第3世代モデルへの発展

    この基本モデルに為替レートの減価の強いバランスシートへの影響を含ませることで第3世代の危機を説明できるようになる。危機から観察されることは次のようなことだ。
    • 多くの企業がレバレッジを効かせた投資をしている
    • そうした負債の多くが外貨建てである
    • バランスシートの劣化が投資を制約する

    このようなことをモデルに導入するためには国内需要Dと貨幣供給Mを直接為替レートeに依存させれば良い。

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    為替レートは固定相場が仮定されているが、大幅な減価・増加圧力に対して切り下げ・切り上げのおそれがある場合にはAA曲線は右下がりのものとして表現される。国内需要Dに対する為替レートの変化の影響はバランスシート効果を通じてGG曲線を次のように変化させる。

    • 自国通貨が非常に安い時(eが非常に高い時)にはバランスシートは外貨建て債務のために大きく毀損していて、投資がすでに制約されているため、そのレンジでのeのDへのマイナスの影響は小さい
    • 自国通貨が非常に高い時にはバランスシートは健全であるため、eの変動はDへのマイナスの影響は小さい
    • それらの中間のレンジでは、eの変化によりバランスシートが健全なものから不健全なものへと劣化する企業があるためeのDへのマイナスの影響が大きい。

    中間レンジにおけるDの減少がNXの増加を打ち消すほどの影響があるならば、GG曲線が左上がりの部分を持つ。

    Figure2

    このモデルから導かれる政策的インプリケーション

    この時、通常の均衡と危機均衡と複数の均衡が存在する。Krugman(1999b)は危機への対応策を取り上げそれぞれ次のように検討した。

    IMFによる金融支援
    IMFの支援は為替レート介入のための資金を提供するが、金融政策との協調がなければ不胎化された介入であるため効果がない。
    Rollover と Standstill
    (訳注:この文脈でのRolloverとStandstillの意味がつかみかねるので省略。為替取引の停止や銀行の資産凍結などをさすものと思われるが、結論としては効果がない、としている。)
    財政政策
    通常であれば、このような状況での財政には規律が求められるところだが、このモデルが示唆するのはむしろ財政の拡大である。十分大きな財政拡大は危機均衡を取り除いてしまうほどGGを右にシフトさせる。問題はそれだけ大きな支出拡大が政治的に可能かどうかである。
    Figure3
    金融政策
    通貨危機において通常IMFが勧告する政策は、まず一旦急激に金融引締めを行い、その後徐々に緩和していく、というものであるが、幾分驚くべきことに、このモデルはそのような政策に合理性を与える。引締めによるAA曲線の左へのシフトは危機均衡を消し去る。そして通常均衡に落ち着いたところで徐々に緩和をすることで、経済を回復することが出来るのである。問題は引締めの段階で一旦、深刻な不況に陥る可能性があることである。
    Figure4
    構造改革
    危機が発生すると政府は民営化や銀行の整理といった構造改革を迫られるが、このモデルではそのような構造改革が効果を持つことは示唆されない。もちろん構造改革が悪いとは言わないが、このモデルの前提には経済が必ずしも不健全ではなく、投資家の自己充足的な行動が危機を起こすことを忘れないで欲しい。構造改革が投資家の自信(confidence)を取り戻すようなものであるなら話は別だけど。

    とりあえずこの節の結論

    このような考察から、Krugmanは危機均衡を抜け出すには均衡を別の均衡へ移す強制力が必要であると結論づける。このモデルで為替レートの変動がキーであったように、資産価格の変動をキーに同じようなモデルを考えれることで未来に起こるかもしれない危機(訳注:これが書かれているのは2001年です!)に備えることが出来るかもしれない。これが第4世代の危機だ。

    第4世代モデルは第3世代モデルによく似ているが、為替レートの代わりに資産価格に注目している点が異なる。

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    【翻訳(要約)】次世代の経済危機? ポール・クルーグマン

    以下は2001年3月25日から26日にかけて開かれたTel Aviv大学でのRazin会議のために用意されたクルーグマンの論文"Crises: The Next Generation?"の紹介である。クルーグマンが1977年以来続けている通貨危機の研究と近年彼がハマっている日本が陥った流動性の罠研究とを関連づける内容で、なぜ2008年に発生した金融危機において彼が何故金融政策ではなく、大規模な財政政策の必要性を主張したのか、その理由が垣間見える。今回は4節あるうちの第1節までを紹介する。


    Krugmanは1977年に通貨危機についての研究を始めた。が、それはブレトンウッズ体制、スミソニアン体制の崩壊といった歴史的イベントの理解が主たる目的であって、もはや世界は通貨危機とは無縁であると思われていた。しかし、1980年代にラテンアメリカで危機が起こり、1992年ー93年にはヨーロッパでEMS危機、1997年−98年にはアジア危機が発生した。

    この過程で通貨危機を説明する3つの世代のモデルが発展してきた。アジア危機は第3世代のモデルの発達を促したが、KrugmanはBernanke and Gertler(1989) で出されたモデルをベースに、通貨危機と、Krugmanを虜にしているもう一つの対象、日本が陥った流動性の罠とを結びつける第4世代モデルを提出した。

    通貨危機モデル発展の簡単な歴史

    第1世代モデルは固定相場制維持と財政赤字の拡大という相反する政策の追求という「不整合なマクロ経済運営」によって通貨危機を説明する(Krugman 1979、Flood and Garber 1984)。第1世代モデルで説明される危機(ラテンアメリカの危機)の特徴は

    1. 政府の不整合な政策が原因であること
    2. 危機は突然だが、その発生は必然であること
    3. 実体経済には大した害がないこと
    の3点である。

    第2世代モデルは1992年ー93年のEMS危機がきっかけとなって発展した(Obstfeld 1994a, b)。この世代の危機は第1世代とは明らかに異なる特徴を持っていた。財政規律は守られていたし、為替レートの長期的なトレンドもなかった。第1世代で見られたような資本逃避と固定相場の放棄との間に機械的な関係もなかった。

    第2世代の危機の特徴は

    1. 明白な政策の失敗がない
    2. 危機が必然的に発生するわけではなく、投資家の自己充足的な行動によって起きること
    の2点である。固定された為替相場が失業を増加させるような水準にある時に、政府は通貨の切り下げによって雇用を回復するインセンティブがある。よって、政府は現行の(固定された)為替レートの維持に不完全にコミットしている状態にある。このようなときに、投資家は通貨アタックを仕掛ける価値を見いだすが、ある投資家が、他の投資家も通貨アタックを仕掛けると予想することで、自己充足的に通貨アタックが加速する。このような時、政府は上述の理由(失業を減らせる)で対抗する意欲がないので、為替レートの固定を放棄するのである。よって、この世代の危機では固定相場の放棄は失業を改善させ、産出を増加させるので、危機は害をもたらすどころか恩恵を与えさえするのである。

    この第2世代モデルはアジア危機を説明できなかった。アジア危機は明らかに実体経済に害をもたらしたからである。こうして第3世代のモデルが発展することとなった。

    第3世代モデルには3つのバージョンがある。

    1. モラルハザードを含む投資が過剰な債務の累積とその崩壊を招くというもの(McKinnon and Phil 1996、Krugman 1998、Corsetti, Pesenti, and Roubini 1998)
    2. Diamond-Dybvig銀行取り付けモデルを開放経済バージョンにしたもの(Chang and Velasco 1998a, b)
    3. バランスシートに着目したもの(Krugman 1999a, b、Schneider and Tornell 2000)

    ここで注目したいのは第3のモデルである。


    第1節の参考文献

    • Bernanke, B. and M. Gertler (1989), "Agency costs, net worth, and economic fluctuations," American Ecnomic Review 79: 14-31.
    • Chang, Roberto and Adnres Velasco (1998a), "Financial Crises in Emerging Markets: A Canonical Model," NBER Working Paer No.6606, June.
    • Chang, Roberto and Adnres Velasco (1998b) "The Asian Liquidity Crisis," NBER Working Paper No. W6796.
    • Corsetti, Giancarlo, Paolo Pesenti, and Nouriel Roubini (1998), "Paper Tigers? A Model of the Asian Crisis," NBER Working Paper No. W6783.
    • Eichengreen, Barry, Andrew Rose, and Charles Wyplosz (1995), "Exchange market mayhem: The antecedents and aftermath of speculative attacks," Economic Policy, 251-312.
    • Flood, Robert and Peter Garber (1984), "Collapsing exchang rate regimes: Some liniear examples," Journal of International Economics 17: 1-13.
    • Krugman, Paul (1979), "A model of balance-of-payments crises," Journal of Money, Credit, and Banking 11:311-25.
    • Krugman, Paul (1998), "What happned to Asia?"
    • Krugman, Paul (1999a), "Balance sheets, the transfer problem, and financial crises," in Peter Isard, Assaf Razin, and Andrew K. Rose, eds. International Finance and Financial Crises: Essays in Honor of Robert P. Flood, Jr.. Boston, Dordresht and London: Kluwer Academic; Washington, D.C.: International Monetary Fund, pp. 31-44.
    • Krugman, Paul (1999b), "Analytical afterthoughts on the Asian crisis."
    • McKinnon, Ronald and Huw Pill (1996), "Credible liberalizations and international capital flows: The 'overborrowing syndrome,'" in T. Ito and A. Drueger, (eds.), Financial Deregulation and Integration in East Asia, Chicago: University of Chicago Press.
    • Obstfeld, Maurice (1994a), "The logic of currency crises," Cahiers economique et monetaires 43:189-212.
    • Obstfeld, Maurice (1994b).Schneier, M. and A. Tornell (2000), "Balance Sheet Effects, Bailout Guarantees and Financial Crises," NBER Working Paper No. W8060.
    • Svensson, L. (2000), "The Zero Boungd in an Open Economy: A Foolproof Way of Escaping from a Liquidity Trap,: NBER Working Paper No. W7957.
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    【翻訳】Meenzie Chinnのテイラーへの反論

    反実仮想と景気対策 再訪

    Menzie Chinn

    そして、1930年代から2000年代へのいくつかの教訓

    John Taylorは今回の景気刺激策がどれだけ産出に影響を及ぼしたかというトピックを再び取り上げている。この議論の本質はNYT のグラフを彼が拡張したものに要約されている。(このエントリに再掲).

    taylor_fcsts.jpg
    Figure from Taylor (2009)

    以前私が反実仮想についてのエントリで述べたように、これが景気対策の効果を評価する正しい方法なのである。それは、反実仮想された状況(つまり景気刺激策がなかったらどうなっていたか)と現実とを比較する、という方法である。そしてTaylor教授もここでFrank SmetsとRaf WoutersのモデルとBarroのモデルを持ち出して同じ方法を使っている。(言い換えると、刺激策の効果の予測を顕在化した予期せぬショックを含んだ結果とを較べることは [0]にあるようにリンゴとオレンジを較べるようなものだ)

    あるアナロジー

    なぜこれが景気対策を評価する正しい方法というのか。医療を例になぜ反実仮想的な見通しとモデルからの予測を必要とするのかを見てみよう。

    私がある患者にアスピリンを処方したとする。しかし、熱は上がり続けた。私はアスピリンを処方しなかった場合と比較してアスピリンが熱を上昇させたと結論づけることもできる。もしくは、過去の実験と経験から得られた、熱に対するアスピリンの効果に関する情報を使うこともでき、その情報をアスピリンを使用しなかった場合に何が起きたかを推測するために使うことも出来る。さて、我々は熱に対するアスピリンの効果が個人によって、また病気によって異なることを知っている。このことは過去の情報が無価値であることを意味するのであろうか?そんなことはないだろう。効果に違いがあることを許容しつつ、推測されるレンジの中央値(the mid-point of the range of estimates)を特に参照値として推論すべきである。

    モデルと仮定

    一旦進むべき方法を決めてしまえば、あとはモデルについてちょっと考えてみることに意味が出る。第一に、モデルが何を追加しなかったのか。さて、Eichenbaum and Christianoモデル、Laxton et al. モデル(このエントリ参照)、Hallモデル(経済活動についてのBrookingsパネルで発表されたこの論文を参照)などがある。これらの論文はDSGEのフレームワークでのニューケインジアンの要素を持つモデルを使って、著しく大きい乗数効果の存在を主張している。つまり、これらはテイラー教授が使ったモデルと同じDSGEモデルなのである(詳細はECBワーキングペーパーを見よ)。なぜ違いがあるのか?私は金融政策を遂行する上での仮定が(他の様々な要素の中で)関係しているように思う(Brad DelongがCogan et al.論文に関して指摘したポイントである)。

    もう一つの問題: これらのモデルをどう適用するのか?NYTの記事で引用されたマクロ経済計量モデルは価値判断を含んだ形で推計されている(estimated with judgmental factors incorporated)(マクロ経済アドバイザーモデルの非常に分かりやすい説明は ここ)。DEGEモデルはどう適用されているだろうか?パラメターはインパルス反応関数が目的(priors)とデータにそぐう(confirm)まで微調整される(政策機関が用いるDSGEモデルのCamili Tovarによる概説を見よ)。(そしてBarroモデルの場合には非常に限定された期間で推計されている。どれをとっても1950年以降に始まるものはない。このエントリに対するコメントを見よ。)

    方法論について解決したならば、次はこの特定のモデル(とその結論)がどこからやってきたのかを理解しなくてはならない。そしてどんな仮定がその結論を導いているのかを。これが私が政策の効果に関する結論を出すためにしばしば乗数(誰かしらメタ研究をするべきだ)と乗数の幅(CBOが[3]を行うように)についての調査[1] [2] を参照する理由である。

    先へ進もう

    このエントリの最後にテイラー教授は次のように結論づける。

    ...もっと言えば、それぞれのモデルにはそれぞれの考え方がある、と私は考える。今こそ客観的なデータと実際の経験に注目すべきである。

    私はいつもデータに注意を払うべきだと考えている。充分なデータが揃っていない(景気対策が2009年の第二四半期に始まっており、2009年の第四四半期の速報もまだ出ていないのだ)ため、SVARなどの手法を使って刺激策の効果をどうこう論じれるというような楽観的には私はなれないのだ。

    Multipliers from the Great Depression

    新年(と次の10年)に向けてちょっと違う話で終わりにしよう。1929年から1939年の間の27カ国に渡る政府支出の乗数のMiguel Alumunia、Agustin S. Benetrix、Barry Eichengreen、Kevin H. O'Rourke、Gisela Ruaによる推計だ。かれらの論文から(h/t クルーグマン

    Figure 14 presents the responses to a shock to defence spending. It shows thatinnovations in this variable are expansionary. This shock explains, on average, 6 per cent ofthe forecast error variance of the GDP equation in a five-year horizon. Defence-spendingmultipliers are 2.5 on impact and 1.2 after the initial year. These are at the upper end of therange of multipliers estimated using modern U.S. public spending data.50 The absence of afiscal policy effect on output during the 1930s does not reflect the absence of a positive fiscalpolicy multiplier, it would appear. Note that this is also the conclusion of Romer (1992) inher calibration exercise for the United States in the 1930s.

    ヒント(Food for thought):名目金利が低く、戦時割当のない時代のデータに基づいた実証的な証拠

    Econbrowserの読者諸君、新年おめでとう!

    edit

    【翻訳】John Taylor 「財政政策に効果あり」におかんむり の巻

    John B. Taylorのブログ・Economics Oneのこのポストを紹介する。要点は「財政政策に効果があったなんて嘘つくんじゃねー」ってことだろう。僕的にはどう考えても財政政策に効果があったと思うのだが、一応テイラーのような有名な経済学者が反対しているということもお伝えしてく。なお、ここで言及されたEconbrowserのMenzie Chinnが反論しているのでそちらも次回紹介したい。


    景気対策のインパクトを経済モデルで計測すること

    John B. Tayler

    2009年の景気対策法案が議会を通過してもうすぐ1年になる。その効果がどれくらいであったかの検証は残念ながら未だに、また最初から結論ありきの経済モデルをもとに行われている。一年前にインパクトは大きいものになるだろうと予言した、その同じモデルは今、インパクトは実際に大きかったことと喧伝して回っている。しかし私はそれはマスメディアを混乱させたと考える。つまり、この評価は景気刺激策の実際の経験に基づいていないのである。

    例として11月21日のニューヨークタイムズの記事が挙げられる。タイトルは「景気刺激策は価値ある一歩であったと新たな合意」。記者のJakie CalmesとMichael Cooperは「客観的なデータの蓄積と実際の経験はより冷静な分析でもって合意に至らしめた。すなわち、一連の刺激策はご覧の通りゴタゴタしてはいるが機能している。多くの経済学者がいうように、この法案(刺激策)は経済を1年前の急降下から再成長の軌道に戻し、景気刺激がなかった場合よりも失業の増加を食い止めた。」

    証拠として記事は三つのグラフを示した。それらは下に再掲されている。左側の三つのグラフはそれぞれグラフの上に記されているグループによって支持されているケインジアンモデルに対応している。三つのグラフはどれも刺激策がなかった場合の回復を著しく弱いものとしている。黒線とグレー線は刺激策の効果の見積りである。しかし、この効果は刺激策が日の目を見る前からモデルに内蔵されているものであった。だから、そこには何も新しいデータも実際の経験も含まれていない。

    Forecastslide

    では次にいわゆる「合意」についてはどうか?実際のところ刺激策があまり効果がないことを示す経済モデルは多数存在する。そして今も変わらぬアプローチで刺激策が効果がないことを今も主張している。これを示すために私はニューヨークタイムズの元の記事にはなかった二つのグラフを右側に付け足した。最初のものはECB研究所のディレクターであるFrank Smetsと彼の同僚Raf Woutersによる一般的かつ非常に良く知られたニューケインジアンのモデルである。ここでも黒線とグレー線の差に注目して欲しい。これはJohn Cogan、Volker Wieland、Tobias Cwik、そして私による研究で示されたモデルが予想したものである。景気対策のインパクトが非常に小さいことが分かるだろう。二つ目の新たに追加されたグラフはハーバードのRobert Barro教授の研究によるものである。彼は1月に次のように説明していた。「私が平時の政府支出の乗数を直接推計したところ、ゼロとほとんど変わらないと言う結果を得た。」だからこの研究によると、黒線とグレー線との差はほとんどないものとなる。それはグラフに描かれている通りである。よって、「合意」なんてものは存在しないことがわかる。

    Menzie ChenはEconbrowserでニューヨークタイムズの記事の三つのグラフを、景気対策がなかったという想定(グレー線)を使った彼の優れた分析(訳注:嫌味?)をサポートするために言及している。追加した二つのグラフはたった三つのモデルで結論を出すことなく政策分析の頑健さを確立する重要性を示している。もっと言えば、それぞれのモデルにはそれぞれの考え方がある、と私は考える。今こそ客観的なデータと実際の経験に注目すべきである。(終)

    edit

    【翻訳】【サーベイ】『流動性の罠』への対策:リフレーション

    ニューヨーク連銀のEggertssonによるこのサーベイは短期名目金利がゼロという流動性の罠に対する現時点での一つの回答を示している。その回答とはリフレーション(reflation)である。その考え方の基本はアービング・フィッシャーに遡り、実際にルーズベルトによって実行に移され成功を収めた政策である。ここでは期待への働きかけを重視する現代的で精緻化されたリフレーションが提示される。これはまた、1977年にKydland and Prescottによって提示された動学的不整合(Dynamic Inconsistency)への回答でもある。

    流動性の罠

    Gauti B. Eggertsson

    流動性の罠は短期名目金利がゼロの状況として定義される。かつてのケインジアン(The old Keynesian)は流動性の罠にはまった状況ではマネーサプライの増加は効果がないため、金融政策が無効になってしまうと論じた。近年の研究では対照的なことに現在のマネーサプライの増加が効果がないとしても、金融政策はゼロ金利で効果がないなどということは全くないといことが強調されている。しかしながら重要なことは現在のマネーサプライではなく、利子率がプラスとなった未来のマネーサプライについての期待をコントロールすることなのである。

    流動性の罠は短期名目金利がゼロの状況として定義される。この場合、多くの識者がマネーサプライの増加は産出にも物価にも影響しないと論じている。流動性の罠は元々ケインジアンの考えであり、貨幣数量説 --- おおざっぱに言うと物価と産出がマネーサプライに比例しているという説 --- と対置されるものである。

    ケインジアンの理論によれば、マネーサプライは名目金利を通じて物価と産出に影響を及ぼすとされる。マネーサプライの増加は貨幣需要方程式を通じて金利を引き下げる。引き下げられた金利は産出と支出を刺激する。しかしながら短期名目金利はゼロ以下になることはない。なぜなら少なくとも100ドルのリターンがないのに、100ドル貸す人はいないという基本的な裁定の論理が成立するからである。これはしばしば短期名目金利の「ゼロ下限制約」と呼ばれる。よってケインジアンは短期名目金利がゼロになってしまうほどマネーサプライが増えると、それ以上いくらマネーサプライを増やしても産出や物価に影響を与えることない、と論じるのである。

    流動性の罠の根底にある考え方は大恐慌のさなかに発見された。その時(大恐慌時)、短期名目金利はほとんどゼロであった。例えば、1933年の始めに、アメリカの短期名目金利(3ヶ月国債)はわずか0.05%であった。幾人かの研究者が流動性の罠について研究したものの、大恐慌の記憶が遠のくにつれて流動性の罠は理論的な興味を誘う程度のものと考えられるようになった。

    1990年代になると流動性の罠は新たな事例の登場とともに再び注目を集めることになった。90年代の後半の日本で短期名目金利がゼロ近くまで下落したのだ。さらに日本銀行(BOJ)は物価を上昇させ需要を刺激する手段として伝統的および非伝統的手法を用いてマネタリーベースを倍以上に増加させた。2001年から2006年に行われた「量的緩和」を一例に取ると当該期間にマネタリーベースは70%以上増加した。しかし、最も好意的に解釈しても物価に対する影響はわずかであった。(量的緩和が始まって5年たった時点でCPI(消費者物価指数)とGDPデフレータはやっとプラスに向かって動き始めた程度であった。)

    現代の流動性の罠への考え方

    現代における流動性の罠の捉え方は伝統的なケインジアンほど単純ではない。現代の視点は総需要が現在の利子率にのみ依存する旧来のケインジアンのモデルとは異なり現在のみならず未来の実質金利にも依存する確率的動学一般均衡モデル(Intertemporal Stochastic General Equiliburium Model)に依拠している。現代のフレームワークでは、中央銀行が利下げによって充分対応できなくなるような大きなデフレショックが発生し短期名目金利のゼロ下限に直面する時、流動性の罠は発生する。

    モデルの前提となる総需要の関係は通常、代表的家計の最大化問題から導かれるオイラー方程式として表現される。生産された財が全て消費されるという前提のもとでオイラー方程式は次のように近似される。

    ここで、Latex-Image-1-1は定常状態の産出量からの逸脱量、Latex-Image-2-1は短期名目金利、Latex-Image-3-1は物価上昇率(インフレ率)、Latex-Image-4-4は期待値作用素(expectation operator)、Latex-Image-5-1は外生的なショック過程である。この方程式は現在の需要が将来の期待産出量と名目金利と期待インフレ率との差である実質金利に依存することを示している(なぜなら支出は期待所得に依存し、低い実質金利は将来の支出に対して現在の支出を有利にするからである)。この方程式を再帰的に代入することで次の方程式が得られる。

    Latex-Image-2

    この式は需要が現在の短期金利のみならず将来の全ての時点の金利と期待インフレ率に依存していることを示している。長期金利が現在と未来の長期金利の予測に依存しているため、この方程式は需要が長期金利に依存していると解釈することも可能である。このモデルでは金融政策は短期名目金利を通じて機能するが、短期名目金利をゼロ以下にすることが出来ない事実によって制約を受けている。Latex-Image-3

    ケインジアンの静的なフレームワークとは対照的に、このモデルでは現在の短期名目金利がゼロになったとしても金融政策は効果を発揮することが出来る。しかしながらそのためには拡張的な金融政策がゼロ下限制約を受けなくなる未来の金利に対する人々の期待を変えるものでなくてはならない。ゼロ下限制約を受けなくなる時点とはデフレショックが収斂すると考えられるだけの期間のあと、といえるかもしれない。流動性の罠にはまった状態での金融政策の成否を分けるポイントは、デフレ圧力が収まったあとも未来の名目金利を、(訳注: その時点の)任意の所与の物価水準に対して、より低く保つ約束をすることである(例えば、Reifschneider and Williams 2000、Jung, Teranishi and Watanabe 2005、Eggertsson and Woodford 2003、Adam and Billi 2006を見よ)。

    これがBOJが2003年の秋にCPIがゼロ以上になる見通しが立ち、デフレ圧力が収まるまで金利を低く保つと約束した理由であった。また、FRBが2003年の中頃に「当面の間」利子率を低く維持すると宣言した理由の根底をなすものであった(そのころアメリカでデフレが懸念されていたのである。2003年の春に大恐慌以来となる低利子率に達し、何人かのアナリストがデフレの危機を主張した)。

    ここで考察されたモデルでは名目金利とマネーサプライには直接の対応関係が存在する。これには(消費に関するオイラー方程式(1)ど同様に)代表的家計の最大化問題から導出される実質貨幣残高の需要方程式が根底にあるのである。この需要方程式は名目金利とマネーサプライの関係として表現することが出来る。

    Latex-Image-4-3

    ここで、Latex-Image-6-1は名目貨幣残高、Latex-Image-7-1は物価水準である。財と流動性がどちらも(訳注:所得の上昇によって需要が減るような下級財ではなく)通常財ならば、不等式は貨幣需要は利子率の減少関数、産出の増加関数となることを示している。しかしながら、名目金利がゼロに低下すると、貨幣需要は定義できなくなる。なぜなら家計は貨幣とリスクのない短期国債を区別しなくなるからである。どちらも利子のつかない政府の債務であることからこれらの二つは完全な代替財なのである。これを別の表現で言い表すならば、(所与の物価水準に対して未来の名目金利を低位に保つ約束が担保された)有効な金融政策は再び金利がプラスに転じた将来においてもマネーサプライを増加させることにコミットすることを必要条件とする、といえる(例えば、Eggertsson 2006aを見よ)。

    金融政策が無効となる場合

    上述した現在の考え方では金融政策は将来の期待マネーサプライ(=未来の名目金利の経路)を変えることが出来た時のみゼロ金利での需要を増加させることが出来る。而してケインジアンの流動性の罠は中央銀行が期待を動かすことができないときにのみ真の罠となるといえるのである。いくつかの興味深い条件の下で期待に影響を与えることが出来ず、金融緩和が無効となるケースが存在する。これらの「無効性」は2001年から2006年のBOJの「量的緩和」によるマネタリーベースの増加が、貨幣数量説の支持者達が考えていたほどにはインフレ及び期待インフレへの効果がなかったことの一つの説明になるであろう。

    例えばKrugman(1998)はゼロ金利においては、金利がプラスに転じるやいなや中央銀行がマネーサプライをある一定水準に復帰させることを人々が予想するならば量的緩和は無効となることを示した。この場合にはマネーサプライをどれだけ増やしてもその後の引締めが予想されるため、産出と物価に変化は起こらない。

    Eggertson and Woodford(2003)は、中央銀行が(実際に先進国の多くの中央銀行が従っていると考えられている)テイラールールに従っているならば、同様に金融政策が無効となることを示した。テイラールールに従っている中央銀行は経済が目標とするインフレ率と潜在成長率を上回ると金利の引き上げを行う。逆に、ゼロ下限制約が有効にならない限りにおいては、目標インフレ率と潜在成長率を下回る時には利下げを行う。中央銀行がテイラールールに従っていると人々が信じているならば、暗黙に了解されているインフレ目標を上回るインフレ圧力が加わった場合、直ちに人々は金利の引き上げを予想する。このことは、仮に目標が物価安定と認識されているならば量的緩和は効果がないことを意味する。なぜならばテイラールールへのコミットメントはマネタリーベースのいかなる増加もデフレ圧力の減衰とともに逆転されることを意味するからである。

    Eggertsson(2006a)は中央銀行が裁量的、すなわち未来の政策を確約できないならば、そしてインフレ率と産出ギャップに依存する標準的な損失関数を最小化しようとするならば、このときもまた中央銀行はゼロ下限においてインフレ期待を増加させることが出来ないであろう。なぜなら中央銀行は事後的なインフレを達成するためのインフレへの確約や充分な量的緩和の約束を反古にするインセンティブをいつも持っているからである。このデフレバイアスは先に述べた二つの無効性命題が示すものとと同じ含意を持っている。すなわち、人々はデフレ圧力が去るや否や中央銀行はマネーサプライの増加を逆転させることを予想する、ということである。デフレバイアスは、次節で示されるようにいくつかの方程式を追加することで示すことが出来る。

    デフレバイアスと最適コミットメント

    デフレバイアスは式(1)、(2)、(3)を起点とするモデルの残りを補うことで示すことが出来る。企業はランダムに価格を変更すると仮定することから、このモデルでは価格は伸縮的ではない。これによって供給関数 ---しばしば「ニューケインジアン」フィリップス曲線と呼ばれる--- を得る。これは企業の利益最大化問題のオイラー方程式から得られる(例えばWoodford 2003を見よ)。

    Latex-Image-5

    ここでLatex-Image-8-1は(定常状態からの逸脱量としていの)産出の自然水準である。これは諸価格が完全に伸縮的なときに生産されたとする「仮想的な」産出量である。Latex-Image-9は家計の現在価値割引率、パラメターLatex-Image-10-1は選好と技術パラメターの関数である。この方程式は全ての企業が価格を直ぐに調整できないためインフレによって自然率を上回る産出量に増加させることが出来ることを表している。

    政府がその最大化を目的とする代表家計の効用関数は次のように近似される。

    Latex-Image-6

    ここでLatex-Image-11は産出の目標水準、しばしば「効率的水準」もしくは「最善水準」と呼ばれるものである。Kydland and Prescott(1977)で最初に提示された標準的な「インフレバイアス」は自然率が効率水準を下回る状況、すなわちLatex-Image-12で発生する。

    Eggertsson(2006a)はある状況においてデフレバイアスが存在することを示した。インフレバイアスは定常状態での減少であるのに対して、デフレバイアスは一時的なショックに対して発生する。インフレバイアスがLatex-Image-14である時の名目金利の解について考えよう。それは次のようになる。

    Latex-Image-7

    この方程式は充分に大きなデフレショック、すなわちLatex-Image-13が起きた時には満たされない。特にLatex-Image-1-2の時には、この解は名目金利が負になることを要求する。このケースでは裁量的な政策担当者は名目金利をゼロに設定するが、デフレ圧力がなくなり次第(つまりLatex-Image-16[訳注: 原文のママであるが、πの添字tは誤植と思われる]になり次第)インフレ率を「インフレバイアス」の解であるLatex-Image-14-1に設定することが中央銀行にとっての最適解である。もしショックLatex-Image-5-2が充分小さければ(すなわちデフレショックが充分に大きければ)、ゼロ下限制約によって「インフレターゲット」であるLatex-Image-14-2を実現する能力を中央銀行は失ってしまい、結果、過度なデフレを導くであろう。(ここで議論している研究ではデフレとゼロ金利は実物的なショックに起因するとされているが、流動性の罠をモデル化するもう一つの方法に自己充足的なデフレ期待をベースにするものがある。例えば、Benhabib, Schmitt-Grohe and Uribe 2001 を見よ。)

    Liquidity Trap Eggartsson F

    これを理解するために次のような思考実験を考えよう。予期せぬ負の外生的ショックLatex-Image-5-3が期間0に発生したとする(Latex-Image-17)。そして毎期ある一定の確率Latex-Image-23で発生する定常状態Latex-Image-24に戻るとする。簡単のため、Latex-Image-25と仮定すると、方程式(1)と(4)から上述した中央銀行の振る舞いと、さらに、仮定されたLatex-Image-5-4の過程から、産出とインフレ率の解が次のようになることが容易に確認できる(詳しくはEggertsson 2006aを見よ)。

    Latex-Image-8

    図1はEggertsson and Woodford(2003)で使われているモデルでカリブレートされた数値例の解を示している。(このカリブレーションの元ではLatex-Image-18Latex-Image-19Latex-Image-20、>Latex-Image-1-3である。なお、このモデルは四半期でカリブレートされている。)破線は15四半期で自然利子率がプラスに復帰するという条件での解を示しているが、名目金利の非負性のために14%のGDPの下落、年率10%のデフレがもたらされている。各四半期において次の四半期も外生的ショックが負のまま残るという確率が90%あるという事実が、将来の低産出の持続とデフレという期待を生み、それが(訳注: (1)式を通じて)さらなる(訳注: 現在の)不況とデフレを生み出すのである。中央銀行が短期名目金利をゼロに設定しても民間部門がデフレを予想するため実質金利はプラスである。インフレバイアス(Latex-Image-22)が存在するときも結果は同じであるが、その場合には産出の下落をもたらすような外生的ショックLatex-Image-5-5はそれに対応してより大きく負になる必要がある。

    図1で示された解はEggertsson(2006a)が呼ぶところの、裁量的金融政策によるデフレバイアスである。この解がデフレバイアスを示すという理由はデフレと不況が最適な政策への適切なコミットメントによって大幅に回避することが出来るからである。実線は中央銀行が最適な政策にコミットできた場合の解を示している。この場合、デフレと産出の縮小は大幅に回避される。最適解においては裁量的政策の場合の解から示唆される期間を超える充分な期間、中央銀行は名目金利をゼロに保つのである。これはデフレショックLatex-Image-5-7がなくなった後も金利をゼロに保つということである。中央銀行はデフレショックが消えた後も経済の過熱を許容し、マイルドインフレを受け入れるのである。このようなコミットメントはいくつかの経路で需要を刺激しデフレを軽減させる。名目金利がこれ以上下げられないとしても将来のインフレの予測は実質金利を引き下げる。同じようなことだが、将来の(すなわちデフレ圧力が消え去った後も)名目金利を低位に保つというコミットメントは同じ理由によって需要を刺激する。最後に、景気が過熱すると予想されることでもたらされる将来の所得の増加予想は恒常所得仮説によって今日の支出を刺激する(この図の導出はEggertsson and Woodford 2003を見よ。また、別種のデフレショックプロセスに対する最適コミットメントの導出はJung, Teranishi and Watanabe 2005とAdam and Billi 2006を見よ)。

    裁量的政策の解が示していることは、それが望ましいにも関わらず、中央銀行が将来の政策を確約できないのならば最適コミットメントが実現不可能であるということである。裁量的政策立案者はデフレバイアスに呪われているのである。この呪いのロジックを理解するにはターゲットとするインフレ率と産出量からの逸脱を最小限にしようとする政府の目的(5)を考えれば良い。最適コミットメント政策が正のインフレ率と景気の過熱を要求する一方、裁量的政策でも15期目にはどちらのターゲットも達成できる。よって、中央銀行は約束したコミットメントを反古にし、ゼロインフレを目指し、産出量を最適レベルに保とうとするインセンティブをもつのである。民間部門はこれを正しく予想するため裁量的政策の元では式(6)と(7)で示されるものが解となるのである。これが裁量的政策のデフレバイアスである。

    期待の形成

    「無効性」条件から得られる教訓は、金融政策は期待に働きかけることが出来なければ機能しないということであるが、前説で示されたのはデフレショックに起因する産出の縮小およびデフレを最小化するためには、期待形成を正しい方法で行うことが非常に重要になってくる可能性があるということである。しかし、これは裁量的に振る舞うと考えられているような政府にとっては難しいことかもしれない。望ましい期待を形成するにはどのようにしたら良いのであろうか?

    もっとも単純な方法は政府が政策ルールを公表して、将来の政策を明確にすることである。これはKydland and Prescott(1977)に始まる「ルール対裁量」研究からの教訓である。この研究はインフレバイアスを克服するためのものであったが、デフレバイアスについて持ち上がる動的不整合についてもそれが標準的なものとは異なるにもかかわらず同じロジックが適用できるのである。公表された将来の政策が信用されている限りにおいて、政策は大きな効果を持つ。デフレショックに付随する変動を最小化する様々な政策ルールについての膨大な研究が蓄積されている。その一例はEggertsson and Woodford(2003)とWolman(2005)である。彼らは、政府が物価水準目標政策をとるならば最適コミットメントによる解にきわめて近いか、(目標レジームの精緻度によっては)全くその通りの結果を生むことが出来ることを示した。そこで提示された政策ルールでは、中央銀行はある特定の物価水準に達する(これはデフレショックが消滅したかなり後になる)までゼロ金利を継続することを確約することになる。

    もし、中央銀行と政府のどちらかが公表したことを実行すると信用されていなければ、新しい「政策ルール」の一環として行う将来の政策の公表は充分な効果を持たないであろう。これは特にデフレ環境においては少なくとも次の三つの理由から強くいえることである。一つ目はデフレバイアスは政府が将来の緩和政策および高めのインフレを約束し、実際にその時になれば約束を反古にするインセンティブをもつことを示しいているからである。二つ目は、このようなコミットメントが問題となるようなデフレショックは頻繁には起こらないため、このような状況での中央銀行の行動に対する評判をうまく形成することが出来ないためである。三つ目はゼロ金利下ではリフレーションのための新たなコミットメントを示す具体策(例えば、さらなる利下げなど)がとれないことが、この問題をさらに悪化させる。このことは多くの研究者にリフレーションの信用を高める(つまり、前節で述べた最適コミットメントを誘因整合的にする)ような(政府と中央銀行を一体と見る)統合政府における政策手段の研究へと向かわせるきっかけとなった。

    リフレーションに信用を与えるもっとも手っ取り早い方法は政府が国債を発行すること、例えば赤字財政、かもしれない。国債はインフレをもたらすインセンティブを生むことは多くの研究で知られている(例えばCalvo 1978を見よ)。政府が将来インフレを起こすと約束し、さらに1ドル分の国債を印刷したとする。もし政府がインフレにするという約束を破ったならば、その1ドル分の国債の実質価値は同額分だけ増加しているだろう。そして政府は実質価値の増加した負債を返済するために増税を余儀なくされるであろう。課税が費用を伴うものであれば、デフレ圧力が消えた後も物価を上昇させるという約束破るという理由がなくなるであろう。このコミットメントの方法はEggertsson(2006a)で考察されており、デフレと戦うための効果的なツールであることが示されている。

    Jeanne and Svensson(2006)とEggertsson(2006a)は、為替介入も非常に似た議論によって同じ効果があることを示している。為替介入が政府のバランスシートをリフレーション政策が誘因整合的なものに変えるからである。これは政府が国債や貨幣といった名目債券を発行して外貨を購入すれば、インフレを起こさなければバランスシートロスを招いてしまうからである。バランスシートロスが起きるのはインフレを起こすという約束の反故が通貨の増価をもたらしポートフォリオのロスになるからである。

    この他にもデフレと戦うための武器庫には様々な武器が残っている。実物財やサービスの購入といった実質政府支出もこの場合効果的である(Eggertsson 2005)。もしかしたら最も驚嘆に値する方法は自然産出水準Latex-Image-8-2を一時的に引き下げることで、均衡産出量を増加させることが出来るというものだろう(Eggertsson 2006)。その真に驚嘆すべき理由は、自然産出水準の抑制が物価の実際のリフレーション及び期待リフレーションを生み、これは実質金利に影響を与えるので、産出の回復をもたらすのに十分な効果を持つからである。。

    結論: 大恐慌と流動性の罠

    冒頭で述べたように、流動性の罠に関する古い研究は大恐慌がきっかけであった。現在の研究はここで議論された日本やアメリカの事例に光を差すのみならず、アメリカの大恐慌からの回復過程にも新たな考察を与えるものである。この調査論文はデフレショックが存在する時にリフレーション政策が産出を著しく増加させることが出来ることを示す理論的な帰結を振り返った(図1の実線と破線を較べよ。一方の均衡から他方の均衡への移動が著しい産出の増加をもたらしている)。興味深いことにフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)は、彼が大統領に着任した1933年に、大恐慌以前の物価水準へのリフレーション政策を宣言した。リフレーションを達成するためにFDRはリフレーションの狙いを明確にしただけでなく、実際にこの狙いを信用に足るものにするためにいくつかの政策を実行した。FDRはここで概観してきたような政策、巨額の赤字財政、莫大な政府支出、為替介入、そして自然産出水準の抑制さえも行ったのである(the National Industrial Recovery Act and the Agricultural Adjustment Act: Eggertsson 2006bを見よ)。Eggertsson(2005、2006b)で論じられたように、これらの政策は大恐慌の幕引きに大きく貢献した。FDRの大統領就任後(そしてまさにリフレーション政策を発表したその時)すぐに状況はターニングポイント迎え、1933年から1937年の間に産出は39%増加した。しかし1937年に政府はレフレーション政策とそれを補助する刺激策を---機が熟していないにもかかわらず大恐慌への勝利宣言をして---放棄した。これは1年足らずで工業生産が月に30%も減少した1937年から1938年の景気後退の原因となった。政府が再びリフレーション政策へのコミットを発表すると経済も回復した(Eggertsson and Puglsey 2006を見よ)。流動性の罠の現代的分析は、ゼロ金利はこの期間におけるマネーサプライの一時的な変化を無効にしたが、将来にわたるマネーサプライの成長と金利の期待形成が総需要を決定する重要な要素となっていることを示した。よって、最近の研究は大恐慌の際に金融政策が効力を失ったというにはほど遠く、むしろ主に期待を通じてよく機能したことを示している。

    参考文献

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    【翻訳】【サーベイ】『流動性の罠』 by Gauti B. Eggertsson のアブストラクト

    ニューヨーク連銀のGauti Eggertssonによる「流動性の罠」に関する最近の研究のサーベイです。とりあえず最初のアブストラクトの部分だけアップしておきます。TeXでは作ってあるのだけど、数式の部分を画像化してhtmlに出来たら残りの部分も全部アップします。
    流動性の罠は短期名目金利がゼロの状況として定義される。かつてのケインジアン(The old Keynesian)は流動性の罠にはまった状況ではマネーサプライの増加は効果がないため、金融政策が無効になってしまうと論じた。近年の研究では対照的なことに現在のマネーサプライの増加が効果がないとしても、金融政策はゼロ金利で効果がないなどということは全くないといことが強調されている。しかしながら重要なことは現在のマネーサプライではなく、利子率がプラスとなった未来のマネーサプライについての期待をコントロールすることなのである。

    Appendix

    リフレ

    インフレ目標2%を断行せよ

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