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だから過程(=証明)が大事なんだってば

僕の定期巡回先である, 数学者くるるさんのエントリ大学での数学経由で知ったのですが, 数学における証明の重要性について興味を惹く議論がなされています.
もともとは痛いニュース(ノ∀`):答は合ってるのに×。先生どうして? 「数学で大切なのはプロセスだ。答なんてただの数字でしかない」がコトの始まりなのかと思うが, このスレッドで笑ったのが
222 名前:パトリオット[] 投稿日:2006/10/12(木) 00:43:11 ID:uCdrxwb70
>>217
私はこの問題を解決する驚くべき証明に至ったが余白が少なすぎる・・・って書けよw
僕が採点者なら○にするな, この解答. この話を知っているだけで数学が好きなのは分かるし, 過程を省略しても正しいのだろうと推察できるから. というか, そんな理屈じゃなくて粋な解答なのでグッド. 何が自明かなんてのはレベルによって違うので他の問題に対する解答(の仕方)を見て決めればよいんじゃないかと思う. ガロアは結局志望校には入れなかったそうだが, それはひとえに彼にとっては自明すぎる過程をつらつらと綴るのは耐えられなかったためであろう. フェルマーも証明はあまり残していないらしいが, 天才というのはその思考の痕跡を残すことを嫌うものなのかね.

数学においてプロセスが重要かどうか, を議論するに当たって多くの人が指摘しているように論者の立ち位置によって大分変わるようだ. というのも数学が苦手な人は数学を「巨大な計算の固まり」と思っているから, プロセス=大量の計算, と思いがち. もちろんたくさんの計算をして試行錯誤を繰り返して正しい直観が働くようになっていくのだから, 計算は大切だし数学を学ぶ上で本質的だと思う. 理系でも数学科以外での数学とは単なるツールであるから定理(つまり公式)を覚えて計算が出来ればよい, という認識の人も多いだろう.

では, 数学者はどう考えているかというと, くるるの数学ノート - 大学での数学では
私たちが本当に教えたいのは、「シンプルな発想の転換と論理で、難しかったはずの問題がすっと解けるようになる」ということなんですよ。そういう意味での数学の強力さというか。
集合論が専門のくるるさんらしい言い回しだと思うけど, これまで難しいと考えられていた問題の持つシンプルな構造を見抜く力をつける, ってことが数学教育の最も大事なところだと僕は思う. 証明というのは多くの場合, 過去の偉大な数学者の思考の追体験になるわけだ. もちろん, 本当に苦労したところとか, そういった痕跡は消されてしまっているんだけど.

ショーペンハウエルの『読書について』という本の中で「読書とは他人の頭で考えることである」という一節があったと思う. 僕が思うにこれには二つの意味があって, 「本ばっかり読んでないで自分の頭で考えなさい」という意味と, 「過去の偉人の思考方法を真似るための最良の方法である」という意味があるように思う. 証明というのは思考の痕跡であり, 正しい, 正しくないとは別の軸で「どう考えたか」がわかるものである. ガウスは整数論の相互剰余に関して「ガウスの補助定理」なるものを証明しているが, 全く分野の異なる6種類の方法で証明しているそうだ.

謙虚な先生であれば生徒の解答に自分の想像しなかったような「エレガントな解答」を期待しているかも知れない. 逆に解答へ至る過程がなければ, その生徒が本当に正しい答えであると確信しているのかわかりようがない. 先生の用意した答えが間違っていることだってあるし. もっと広い意味で証明の有用性(数学に関わる上で数学の有用性を論じることほど嫌なことはないのだが)を見いだすならば, 他人を説得しようと思うならば, 自分の正しさを証明する以外にはなく, それ以外の方法, 例えば絵画, 音楽, 文学などのアートであるとか, 恐喝・恫喝の類でも説得(?)できることもあるだろうが, 良い方法なのだろうか?

数学における解答へ至る過程, それが証明であろうと計算であろうと(計算も証明の一形態だが), それ自体が正しいかどうかは非常に重要であって, それはなぜかと云えば, 形を変えた同種類の問題(何も学校の試験とは限らない)を与えられた時にそれに正しく解答できる確率が格段に高くなるだろうから. 例えば中学で習う連立一次方程式. これは経済学にとって本質的であるが, それは連立一次方程式が経済の持つ構造を模していると喝破する能力が先人にあったからこそ応用できたわけで, 連立一次方程式の解をただ求めることが出来るだけではダメなんだと思う. (連立一次方程式を「知って」いても, 経済を需要という式と供給という式に分けることが出来ない人が世の中どんなに多いことか...)

過程とは解の持つ解釈であるから, それは一つではなく色んな角度から眺めることが出来る. 問題によっては幾何学的に捉えると分かり易かったり, 代数的に捉えると良かったりする. だから過程が大事どころではなく, いろんな過程を知ることが大事とさえ言える.

話が逸れるが, 気になったことがあるのでそれについても触れたい.
>数学で大切なのはプロセス
というのはその通りなんだけど、
このテストにおいて事前にその点をキチンと説明してあったのかどうかは
とても重要で。
恐らくそんな説明はないだろうからこの対応はダメダメな気がするけど。
156 名前:ダンス特訓中[sage] 投稿日:2006/10/12(木) 00:29:49 ID:PV3RVGBk0
授業でプロセスが大事だって事を教えてたかどうかが問題だな
これらに見られるように, 教師が事前に「過程が大事だよ」と教えていなければ「答えが合っているだけじゃダメ」というのはまずい, という意見がある. でもそうなのかな. 数学を学ぶ上で過程が大事なのってわざわざ明示的に教わらないとわからないものなのか. それはともかくとしても, 試験ー採点という一連の流れは契約の一種と見なせるだろうけど, 起こりえる全ての事象について契約書に言及することは不可能なんで, 事前に云わなければ全部ダメ, ってことにはならないだろう. だから, 問題はこの「過程が大事だよ」ということが事前に知らせておくべき重要事項であるかどうかの判断にかかってくる. 僕はこれは「常識」の範囲内にあると思うから別に知らせる必要はないと思うし, 答えのみしか書かれていない場合, または答えは合っているけど, その過程が間違っている場合, いずれにしてもその生徒が「正しく考えた」証拠にならないので, どう理屈をこねてもダメだと思う.

なんだかとりとめのない駄文・長文になってしまったがここまで読んで下さって感謝.
※引用を許可しないという方はお手数ですが当該エントリのコメント欄にてお知らせ下さい.
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4件のコメント

[C1819]

>教師が事前に「過程が大事だよ」と教えていなければ「答えが合っているだけじゃダメ」というのはまずい, という意見がある. でもそうなのかな. 数学を学ぶ上で過程が大事なのってわざわざ明示的に教わらないとわからないものなのか.

同意です。
付け加えれば、教師の仕事が「試験」以前に終わっていると考えるのは間違いかな、と。
この教師は、試験−採点と解説という手段によって、「数学で大切なのは過程なのだ」ということを一生徒に対して教育したわけで、つまり試験と採点と解説も、彼の授業の一部だと考えれば全く不当ではない、と私は思います。むしろ良い先生ではないかと。

試験やそこで良い成績を取ることを「目的」だと考える発想を少し転換することを、当該のスレの方々には求めたいなあ、と思いました。
  • 2006-11-08 09:20
  • J
  • URL
  • 編集

[C1821]

点を取ることが目的になってしまうのは致し方ないと思います. だからこそ先生の「正しく過程が書かれていないいなければ点数を上げない」という作戦は学生に本来の目的である「考え方」を学ばせることと整合的だと思います.

Jさんがおっしゃるように, 試験の点によって自分の理解度が明らかになることなので, 一連の流れ(試験ー採点ー反省wみたいな)が「学ぶ」上で大事なのだろうと思います.

僕の通う大学では, 先生によっては答案を返却してくれず点数しか教えてくれなかったりするのですが, それはやめて欲しいです. 自分の答えが間違っていたとしたらどこをどう間違ったのかを知らないと, その後もずっとわからないままになってしまうので. なにしろ自分はそれが正解だと思って書いているわけでして...

[C1822]

なんか私が数学者代表のようになってしまっていてちょっと気が引けるのですが…。いつも「logicianなんか数学者じゃない!」とか思われているので(被害妄想込み)。

あちこちの記事やはてブを見ていると「数学」という言葉で何を思い浮かべるかが違っていて、意見の相違はほとんどそこから生まれているような気がします。受験科目としての数学と、道具としての数学と、研究対象としての数学は違うわけで。道具としてみた場合にも、特定の道具の使い方のみを学ぶのか、それとも新しい道具が手渡されたときにあたふたしないようになろうとするのか、既存の道具をカスタマイズできるようにするのかなどと。過程が大事かどうかというよりは、誰がどの程度どのように数学を勉強するべきかということにかかってくるのではないかと。
大学で教えているものとしては、型にはまった問題だけではなく、数学的発想を柔軟に適応してさまざまな問題が解けるようになっていって欲しい、と思ってやっているわけですが。

[C1824]

(あんまり言いたくないけど)数学って便利なんだと思います. それはくるるさんのおっしゃるようなメタなレベルでも具体的なレベルでも. 数学的な問題に見えなくても捉えようによっちゃ数学的な問題として扱えたりしますよね. それこそロジックも「ロジックを数学的に捉えよう」 というのが今のロジックの始まりかと愚考します. 哲学系の人は怒るかも知れませんが.

一方で, もっと具体的に数学が応用されている分野はそれこそ山のようにあるわけですが, 最初にそういう応用を考えたときは, まだ筋道の見えない答えを模索してやってたどり着いたのだと思います.

話が少しづつ逸れていきますが, 「数学は人生の役に立たない」という人がいます. これは数学に限らないことですが, こういう発言をする人が単に「数学を役に立たせることが出来ない」だけだと思うわけでして...

話を戻すと, どんな立ち位置の人でも人生を生きていく中で(自分にとって)未解決の問題にぶち当たるのが日常だと思います. その問題へ取り組むための良い方法を教えてくれるのが広い意味での「数学的思考」であって, そのエッセンスは証明にあるのではないか, と思っています.

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