薬も量を間違えれば毒になる。毒になることばかりを心配して薬を使えないのが日銀だ。薬を処方できない医者なんかいらないように、金融緩和できない日銀なんて要らない。
では現実にどんな種類の薬があるのか。
通常の金融政策は金利を通じてマネーサプライを増減させるが、日銀は「ゼロ金利の壁が手足を縛っている」という。つまり、「名目金利はゼロ以下には出来ない」という理屈だ。しかし、それは数の歴史において「負の数など存在しない。なぜならリンゴは1個2個と数えられるが、0よりは少なくなれないからだ」という今となっては恥ずかしい論証と同じように説得力がない。マイナスの金利、つまり借金すると利息をもらえる、があって何がおかしいのか?
スウェーデン中央銀行が行っているのは超過準備に対するマイナス金利。これは日銀の実務としてのオペレーションとしては市中銀行の超過準備(銀行の持つ資金のうち貸し出しに回らない分で、日銀にある市中銀行の当座預金になる)に対する負の利息になるので、市中銀行に対するペナルティと捉えられるが、それは見方が局所的すぎる。
日銀がいくら銀行に資金を提供しても、それが貸し出しに回らず超過準備になってしまう一つの理由は超過準備に付利するからだ、と批判する経済学者がいるが、それは正しいように思われる。貸し出すよりも超過準備の利子で儲けた方がリスクなしで儲かるから良い、というスタンスになるのはやむを得ないからだ。これではせっかくの金融緩和も効果が半減する。なにしろ需要がないのだからそう簡単には貸出先は見つからない。だから、超過準備の利子をマイナスにしよう、つまり超過準備として日銀に預けておくと少しずつ資金が目減りしていくことにすればもっと市中に資金が回るはずだ、と考えるのはごく自然なことだ。これを「ペナルティ」と考えるのは、特にデフレの日本では無理がある。実質金利で考えればマイナスとは限らないからだ。デフレでなかったとしても金融緩和という文脈で捉えればペナルティにはならない。日銀からの貸し出しの金利もマイナスにすれば良いからだ。こうすれば、市中銀行は借りれば借りるだけ利子を得ることが出来るわけで、ゼロ金利という「壁」は取り払われる。何も特別なことはない。
さて、こうなると同様に市中銀行も企業などに対してゼロ金利の制約がなくなる。日銀がマイナス10%で市中銀行に資金を出せば、銀行はマイナス5%で貸し出しても儲かる。これならばデフレ下においても借金による投資が怖くない。銀行は預金を集める必要がなくなるから、預金金利はゼロになるだろう。別にこれをマイナスにしたって構わない。タンス預金になるだけだ。デフレというベースを考えればタンス預金のゼロ金利は実質ではプラス金利だから、とやかく言うことではない。金利収入よりも給与所得を増やすことの方が政策として遥かに健全な方向性だということを忘れてはならない。
マイナス金利は「非伝統的金融政策」と捉える向きもあるかもしれないが、そういう人は負の数が存在しなかった時代に生きていれば良い。数の概念の拡張が受け入れられるまでに時間がかかったように、金利の(心理的な)非負制約の撤廃には時間がかかるだろうから、そういう人たちを責めることはできない。
「伝統的金融政策」というのは言葉通り、これまでに経験したことのある政策を指すわけで、前例主義の官僚にふさわしい言葉だ。「前例にない」と言うよりは「伝統的金融政策ではない」と言われるとつい納得してしまう人もいるかもしれないが、違いは何もない。官僚主義に騙されてはいけない。大切なことは金融政策の目的達成であり、その手段を模索することである。
伝統的金融政策からの脱却としてまず考えられるのは国債に囚われない資産・財の購入だ。日銀は社債やCPの買い入れを始めたが、エクスキューズとしてやっているだけにしか見えない。今必要なことは明確なターゲットの設定であり、その実現を人々に信じさせることである。しかし、日銀の行っていることは官僚的な言い逃ればかりで、すべてがちぐはぐだ。実際にはデフレターゲティングをしているのに、形だけの「リスク資産購入」。日銀の言う、貨幣需要がないから金融政策が効かない、というのは大恐慌時代の"Treasury View(大蔵省見解)"で、大嘘だ。貨幣需要がなければ作ればいい。それが日銀には出来る。FRBのように様々な資産を購入するのも一つの手だが、麻生政権が行った定額給付金が最上の方法だ。その理由は第一に「迅速に貨幣を行き渡らすことが出来る」こと、第二に「資源配分に歪みをもたらさない(もしくは小さい)」ことだ。効果を測定することは困難だが、日銀が政策を発動していない現状で、日本経済が持ちこたえているとしたら一番大きな効果を持ったのは定額給付金だろうと思う。こういう政策は財政政策的金融政策なので、縄張りに固執する日銀は嫌う。しかし、マネーサプライをコントロールできるのは日銀だけであり、マネーサプライを通じて物価の安定を図るのが日銀の役割なのである。
Author:night_in_tunisia
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>貸し出すよりも超過準備の利子で儲けた方がリスクなしで儲かるから良い
FRBは、金融機関の当座預金に3%程利息を付けたと
思いますが、それは経済を救うこととは逆行していることに
なるのですね。
だとすると、FRBは単純に子飼いの銀行だけを救う目的で利息を付け、
実体経済を犠牲にしていると考えてよいのでしょうか?
それはなぜだとお考えですか